味噌汁の味。

 あの人の味噌汁はホッとする。定食屋さんで出される一般的な、万人受けする味噌汁と違って、家ならではの味だ。実家を出てからは、余計にそう思う。

 後でわかる大切さ。いなくなって気づく重み。今のうちに聞いておきなさい。その人がいるうちに。

 

 もっと聞いておくべきことがあっただろう。もっと教えてもらうことがあっただろう。先人たちの教えは、くどくどとめんどくさい。でも、後になって気づく、その言葉の意味。伝えたかったこと。

 関われるうちに、できる時にやるべきだ。いつも後回しなこの感情を、めんどくさいと放置し、いつでもできると上から目線で余裕をこき、忙しいからと延ばし延ばし・・・後悔する。

 お盆は、そんなことを思い出させてくれるきっかけでもあるだろう。いつまでも親は元気ではない。

 

 道を渡る時は車が危ないからと手を引いてくれた。いつかは、それが逆転するだろう。・・・正直、考えたくない。憧れていた存在が年老いて、今度は私が守るべき存在になる。シャキッとしていてほしい。いつまでも。

 でも、いつか、その時は来る。

 もっと、言うことを聞いていればよかった。私はかわいい娘でいただろうか。育てにくかったのだろうか。親孝行できてる?そんな思いがよぎる。これから来る現実を見たくなくて、その考えを打ち消す。

 ごはん、何ー? 甘えてみる。ううん、ずっと甘えていたい。ずっと、守ってほしい親でいてほしい。私は守られる娘でいたい。

 

 結婚して、外から親を見る。いろいろあるけど、ありがたい存在で、いつまでも、年老いても「親」だ。私は、いつまでも、いい娘でいたい。

 いつか、味噌汁を習おう・・・と思って数年経つ。まだ、味噌汁を作ってほしいと甘えている困った娘のままだ。